i18n とは?初心者でもわかる国際化対応の基本と実務活用

はじめに

ウェブサービスを世界中で利用してもらうには、単に英語や日本語といった言語を画面に表示するだけでは不十分ですね。 言語に合わせて日付や通貨の表記を変えたり、文字数の違いによるレイアウトのズレを調整したりする必要があります。 こうした仕組みを簡潔にまとめた言葉が i18n (Internationalization) です。 開発現場でも「多言語対応が必要だけど、どうやって管理しよう?」という悩みをよく聞きます。 そこで今回は、初めてプログラミングを学ぶ皆さんにも理解しやすいように、i18nの基本から実務での活用例までを順番に解説していきます。

この記事を読むとわかること

  • i18nの概要や目的
  • 多言語対応が必要となる背景
  • 実装する際の基本的なステップ
  • 実務で考慮すべきポイントや落とし穴

i18nの基本概念

i18nという言葉は「Internationalization」を示すのですが、頭文字の「i」と末尾の「n」の間に18文字があることが由来となっています。 実際には、翻訳のためのリソースファイル管理や、日付・通貨などの地域ごとのフォーマット調整、レイアウト調整など、多岐にわたる作業の総称です。

i18nが重視される背景には、多様なユーザーが同じサービスを利用する現代の状況があります。 特にウェブアプリケーションは世界中からアクセスされる可能性があるため、ユーザーの母国語に合わせたUIやメッセージを提供することで、よりわかりやすく使ってもらえます。 また、言語だけでなく、カレンダー表記や通貨フォーマットの違いにも対応できる柔軟な設計が必要となるのです。

こうした国際化対応を適切に行うと、海外のユーザーが使いやすいアプリケーションへと成長させやすくなります。 一方で、i18nの設計を後回しにしてしまうと、ソースコードの各所に文字列がハードコーディングされたり、言語切り替えの実装が複雑化したりすることがあるでしょう。 このため、初期の段階からi18nを念頭に置いておくことが大切です。

i18nを活用する理由

皆さんの中には「とりあえず英語と日本語の切り替えだけできればいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。 しかし、実際には言語切り替えだけがi18nではありません。

たとえば、日付の書き方であれば「YYYY/MM/DD」や「MM/DD/YYYY」など、国によって読みやすい形式が異なります。 金額表示も「1,000円」や「$1,000」では見え方に差が出ますし、通貨コードを明示的に示す場合には「USD 1,000」のように記載することもあります。 こうした細かい調整は実際に国際ビジネスを意識する場面で大きな差を生むため、多言語対応を真剣に考える企業やプロジェクトではi18nが避けて通れないわけですね。

さらに、将来的に新しい言語に対応するときにi18nの仕組みを使っていれば、既存コードに大幅な修正を加えずに言語リソースだけ追加すれば良いケースが多くなります。 もしi18nがない場合、あちこちに埋め込まれたテキストやフォーマットの修正をすることになり、時間と工数がかかるかもしれません。

i18nの基本実装フロー

実際にi18nを導入する際は、アプリケーション全体の設計を考慮する必要があります。 初めからしっかり仕組みを組み込んでおくと、後で機能追加をするときの負担が軽減されるでしょう。

1. 言語リソースの準備

まずは、アプリケーションに必要となる文言を一元管理するファイルを用意するところから始めます。 JSONやYAMLなどのフォーマットで、各言語ごとの翻訳を配置する方法が一般的です。 以下のような形で、英語版・日本語版などを分割したファイルを用意します。

{
  "en": {
    "welcome": "Welcome!",
    "thank_you": "Thank you for using our service."
  },
  "ja": {
    "welcome": "ようこそ!",
    "thank_you": "サービスをご利用いただきありがとうございます。"
  }
}

このように1つのファイルにまとめる場合もあれば、言語ごとにファイルを分割して管理することも多いです。 こうすることで、文言の変更や追加をする際に、ソースコードを直接編集せずに済むようになります。

2. i18n対応ライブラリの導入

フロントエンドの開発でよく使われる例として、Reactと組み合わせて利用される react-i18next などが挙げられます。 Vueであれば vue-i18n、Angularであれば @ngx-translate/core など、フレームワークごとに便利なi18nライブラリが存在します。 こうしたライブラリを使うことで、言語切り替えや翻訳リソースのロード、パラメータを含む文章の変換などを簡単に実装できます。

Reactでの一例としては、ルート付近でi18n用の設定を行い、コンポーネント内部でフックを呼び出す構成が一般的です。 以下は簡単なイメージ例です。

import React from "react";
import { useTranslation } from "react-i18next";

function Greeting() {
  const { t } = useTranslation();

  return (
    <div>
      <h1>{t("welcome")}</h1>
      <p>{t("thank_you")}</p>
    </div>
  );
}

export default Greeting;

ここで表示されるテキストは、事前に設定したJSONファイルなどの翻訳リソースから取得されます。 言語を切り替える場合には、i18n.changeLanguage("en") のようなコードを呼び出すことで、画面に表示されるテキストが即座に切り替わる仕組みです。

3. 言語切り替えの実装

i18nライブラリでよくある実装パターンとしては、ユーザーが選択した言語をアプリケーションの状態やクッキー、ローカルストレージなどで管理し、それをもとに翻訳リソースを適切にロードする方式があります。 ユーザーがドロップダウンリストで言語を選んだら、その選択を保存しておき、再度アクセスしたときに同じ言語を表示する仕組みにするわけですね。

バックエンド側でも、セッションやJWTに言語情報を紐付けておき、初回アクセス時に自動的にリソースを選定するシステムを構築するケースがあります。 ただ、初学者の方がまず取り組むなら、フロントエンドで言語設定を保存して使いまわすという設計が簡単でしょう。

実務で考慮すべきポイント

i18nを単に「英語と日本語の翻訳データを用意すれば完了」と思っていると、実務で想像以上に手戻りが発生するかもしれません。 ここからは、より現場で遭遇しがちな注意点を見ていきましょう。

翻訳精度を確保する

日本語から英語、あるいは英語から日本語への変換は多くの翻訳ツールがサポートしてくれます。 しかし、専門用語や固有名詞が多い文章では、機械翻訳に依存すると誤訳が混入しやすいかもしれません。 自動翻訳だけを信頼するのではなく、必要に応じて検証プロセスを入れたり、プロジェクトによっては社内外の専門家にチェックを依頼するなどの対応が必要です。

複数の言語を扱うほど手間がかかるので、翻訳管理ツールを導入して、一元的に翻訳やレビューを行う方法が検討されることもあります。 実装とは別のステップとなりますが、現場では翻訳管理のためにエンジニア以外のチームも巻き込んで進めることが多いでしょう。

文字数の増減とレイアウト

日本語から英語に変換したとき、文字数が半分程度になることがありますし、逆に英語からフランス語にすると文字列が長くなることもあります。 そのため、デザイン段階で「このボタンの長さが変わっても対応可能か」を考えておかないと、文字がはみ出してしまう可能性があります。

特に、メニューやボタンなどの幅が固定されている場合は、翻訳先の言語で見切れが発生するケースがあるので注意しましょう。 実務では画面設計の段階でマージンや余白を十分に確保し、多言語対応を想定したUIデザインを考えることが大事ですね。

テキスト以外の要素

i18nというと文章の翻訳だけに目が行きがちですが、実はテキスト以外の要素も考慮すべきです。 たとえば、言語によって画像やアイコンそのものを差し替える場合があります。 国ごとに異なる文化的背景があるので、ロゴやイラストの意図が通じない可能性があるからです。

また、左から右に読むのが当たり前だと思っていると、アラビア語のように右から左へ読む言語に対応する際にUIを大幅に修正しなければならなくなるケースがあります。 このようにi18nは単純な翻訳処理以上のテーマであり、実際の業務でもデザイナーや翻訳チームと協力しながら進めることが求められます。

デザイン上の余白やテキスト配置をあらかじめ柔軟にしておくと、将来的な多言語対応でスムーズに拡張しやすくなります。

実装例: React×react-i18next

ここではReactとreact-i18nextを活用したイメージを、もう少し具体的に見ていきましょう。 概念は他のフレームワークでもほぼ同様ですので、応用ができるはずです。

i18n設定ファイル

まず、アプリケーションのエントリーポイント付近に初期設定用のファイルを作成することが多いです。 たとえば "i18n.js" のようなファイルを用意し、下記のようなコードを書きます。

import i18n from "i18next";
import { initReactI18next } from "react-i18next";
import translationEn from "./locales/en/translation.json";
import translationJa from "./locales/ja/translation.json";

i18n
  .use(initReactI18next)
  .init({
    resources: {
      en: { translation: translationEn },
      ja: { translation: translationJa },
    },
    lng: "ja",
    fallbackLng: "en",
    interpolation: {
      escapeValue: false
    }
  });

export default i18n;

ここでは、言語ごとに分割したJSONファイルから翻訳データを読み込み、デフォルト言語を指定している形です。 この設定をアプリケーションの最初に読み込むことで、他のコンポーネントでも useTranslation() フックを利用できるようになります。

実際のコンポーネント

先ほども少し例を出しましたが、Reactコンポーネントで useTranslation() を呼び出すと、翻訳用のメソッド t() が取得できます。 {t("キー")} のように書くだけで、定義した言語リソースに応じた文言を表示してくれます。

import React from "react";
import { useTranslation } from "react-i18next";

function Profile() {
  const { t, i18n } = useTranslation();

  const handleLanguageChange = (lang) => {
    i18n.changeLanguage(lang);
  };

  return (
    <div>
      <h2>{t("user_profile")}</h2>
      <p>{t("greeting")}</p>
      <button onClick={() => handleLanguageChange("ja")}>日本語</button>
      <button onClick={() => handleLanguageChange("en")}>English</button>
    </div>
  );
}

export default Profile;

ここではボタンをクリックしたときに i18n.changeLanguage("ja") のように呼ぶことで、即座に日本語リソースに切り替わります。 実務では、ユーザーが選んだ言語をローカルストレージやクッキーに保存しておき、再度アクセスしたときに前回の言語設定を読み込む仕組みを組み込むなどの工夫を行います。

翻訳リソースを一元管理し、コンポーネント内では翻訳キーだけを呼び出す形にしておくことで、後から新しい言語を追加するときもスムーズに対応できます。

まとめ

ここまで、i18n の概念から実務での活用シーン、実装例に至るまでを見てきました。 i18nは単なる翻訳作業にとどまらず、UI設計やデザイン、翻訳管理など多方面に影響を与える要素です。 将来にわたってサービスを拡大したいと考えるなら、最初のうちからi18nの仕組みをしっかり取り入れておくと良いでしょう。

翻訳データを使った文字列管理に慣れておけば、新たに多言語を追加するときも基本的な方針は変わりません。 どのフレームワークであってもi18n対応のライブラリやパッケージが用意されていることが多いので、ぜひ自分のプロジェクトに合わせて活用してみてください。 一度導入してしまえば、後から多言語を増やしたり、言語特有の書式を調整したりするときにも役立つはずです。

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