ユースケースとは?目的や作り方をやさしく解説
はじめに
皆さんは、ソフトウェア開発やシステム設計の現場で「ユースケース」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。 プログラミングに関してまったくの初心者であっても、開発プロセスでこの用語に触れる可能性は意外と高いものです。
ユースケースとは、ユーザーがシステムをどのように利用するかを具体的に示すための手法です。 設計段階で想定するユーザーの操作や操作結果を整理することで、抜け漏れのない仕様を組み立てやすくなります。
しかし「定義や図を見ても、いまいちピンと来ない」という声もあるかもしれません。 そこでこの記事では、ユースケースの基本からメリット、そして実際の開発現場での活用シーンをできるだけわかりやすく説明します。
この記事を読むとわかること
- ユースケース とは どのような概念なのか
- ユースケースがプロジェクトにどんなメリットをもたらすのか
- UMLでのユースケース表現や、実務での活かし方
- 実装の流れをイメージしやすくする、コードを交えた具体例
これらを理解することで、ソフトウェア設計におけるユーザー目線の重要性を一歩ずつ学べるのではないでしょうか。 全体を通して平易な言葉遣いを心がけますので、初心者の皆さんも安心して読み進めてください。
ユースケースとは何か
ユースケースは、「システムがユーザーに対して提供する具体的なサービスや操作の流れ」 を表現する手法です。 ユーザーがシステムを利用するシナリオを細かく洗い出し、どのような入力が行われ、どのような出力が得られるのかを整理します。
例えば、Webサービスにログインする操作を考えてみましょう。 ログイン画面からIDとパスワードを入力してログインボタンを押すと、システムは入力情報を確認してからユーザーをダッシュボードページへ遷移させます。 この一連の流れ自体がひとつのユースケースとして捉えられます。
システムが提供すべき機能やフローを明確化できるため、要件定義の場面でよく用いられます。 また、どんなユーザーがどのような目標を達成しようとするのか、という視点を維持しやすいのが特徴です。
ユーザー目線の設計
ソフトウェア開発では、開発者の都合だけで機能を考えてしまうと、本来必要とされる機能が抜け落ちたり、使いにくいインターフェイスになることがあります。 しかしユースケースで考えることで、あくまでユーザーが達成したい行動や目的を中心に設計を進めることができます。
具体例が重要
「こんな画面があったら便利そう」といった漠然としたアイデアでは、実際の仕様へ落とし込む段階で認識のズレが出やすいです。 そこで例示として、ユーザーが会員登録をする場面や商品を購入する場面といった形で、具体的なシナリオを詳細に描くのが大切です。
ユースケースのメリット
ユースケースを導入すると、プロジェクトチーム内で共有される認識がグッと揃いやすくなります。 言葉だけで仕様を議論していると、各自が異なるイメージを持ってしまうことがあるためです。
ユースケースなら、「どのユーザーがどんな入力をして、どんな結果を得るのか」 といったストーリーが明確になります。 そうすると、不要な機能や見落としを発見しやすくなるでしょう。
要件定義のすり合わせがしやすい
例えばサービス利用者がパスワードを再設定する場面を想定すると、入力を間違えた場合のエラー表示や、メール送信のタイミングなど、細かな振る舞いが必要になります。 ユースケースを作っておけば「そもそもメールを送信するのか、それとも画面上にリンクを表示するだけなのか」といった論点を、事前に洗い出しやすいです。
テストケースの洗い出しにも便利
ユースケースは「こういった操作をすると、こうなるはず」という理想形を示すものでもあります。 実装後のテスト段階で「ユースケースどおりに動作しているか」をチェックすれば、機能に不備がないか検証しやすくなるでしょう。
ユースケース図とUML
ユースケースを可視化する際、 UML (Unified Modeling Language) と呼ばれる標準化された表記法がよく使われます。 UMLにはクラス図やシーケンス図などさまざまな図が含まれますが、ユースケース図はその中の1つです。
ユースケース図は下記のような要素で構成されます。
- ユースケース:システムが提供する具体的な機能や操作
- アクター:システムを利用する主体(ユーザーや外部システムなど)
- 関係線:アクターとユースケース、ユースケース同士の関連
これらをシンプルな図で表現することで、プロジェクト関係者全員がすぐに把握しやすい形になります。 慣れてくると、システム全体の動きをコンパクトにまとめられる便利な手法として活躍してくれます。
UMLツールの活用
ユースケース図を描くためには、各種UML作図ツールを利用することが多いです。 ブラウザ上で使えるサービスからデスクトップの専用ソフトまで、さまざまなツールがあります。 手書きで簡単に描いてからデジタル化するなど、プロジェクトの状況に合わせて柔軟に使い分けることが大切です。
ユースケースの作り方
ユースケースを作るステップは、大きく分けて3つあります。 まずは、どのようなアクター が存在するかを洗い出し、そのアクターがどのような目的 を持ってシステムを利用するのかを検討します。 次に、それら目的を達成するためにシステム側が提供すべき操作や結果 を整理することで、ユースケースが自然と浮かび上がってきます。
最後に、それぞれのユースケースをもう少し詳細に書き下します。 「どういう順番で画面を操作し、どんな条件下で別の分岐があるか」という流れをシナリオとしてまとめると、より具体的な仕様が見えてきます。
アクターの洗い出し
アクターとは、システムを利用する主体のことです。 Webアプリなら一般ユーザーや管理者ユーザー、外部API連携なら外部システムがアクターになる場合もあります。
「誰がこのシステムを使うか」を明確にすることで、「誰の視点で何を実現したいのか」が整理しやすくなります。 多くの機能を含む大規模なシステムほど、アクターごとのユースケースを作り分けると混乱しにくいです。
ユースケースの洗い出し
アクターが明確になったら、アクターが行う主な操作や達成したい目標をリストアップします。 たとえばECサイトなら「商品をカートに追加する」「注文手続きを完了する」「会員情報を更新する」といった操作が具体例になるでしょう。
これらの操作を、それぞれ1つのユースケースとして定義します。 初めはざっくりとリスト化して、後で細分化する流れでも構いません。
シナリオを詳細化する
リストアップができたら、各ユースケースに対して入力や分岐条件、エラーハンドリングなどをもう少し掘り下げます。 「ログインに失敗した場合」「カート内に商品が存在しない場合」など、想定される状況を盛り込みながら処理の流れを明文化するわけですね。
この段階で、必要な画面レイアウトやボタンの配置などもイメージできるようになるケースがあります。 実装時に混乱しにくいというメリットがあるでしょう。
コード例でイメージするユースケース
ユースケースはあくまで設計上の考え方ですが、実装との関連も強いです。 ここでは簡単なコード例を通して、「ユーザー操作がどのようにプログラムの流れと結びつくのか」を見てみましょう。
ユースケース例:ユーザーの権限による操作
あるWebアプリにおいて、管理者ユーザーは特定の操作が可能で、一般ユーザーはできない操作があるとします。 ユースケースにすると「管理者がレポートを生成する」「一般ユーザーが自分のプロフィールを変更する」といった形に分けられます。
// roles.js // シンプルなロール判定の一例 function canGenerateReport(userRole) { if (userRole === "admin") { return true; } return false; } function canEditProfile(userRole) { // adminでも一般ユーザーでも許可するとする if (userRole === "admin" || userRole === "user") { return true; } return false; } // ここから実際に呼び出す部分の例 const user1 = { name: "Alice", role: "admin" }; const user2 = { name: "Bob", role: "user" }; console.log(canGenerateReport(user1.role)); // true console.log(canGenerateReport(user2.role)); // false console.log(canEditProfile(user1.role)); // true console.log(canEditProfile(user2.role)); // true
上記のコードは、管理者と一般ユーザーで実行可能な操作が異なることを表しています。 ユースケース図で描く場合、管理者アクターには「レポート生成」のユースケースを関連付け、一般ユーザーには「プロフィール変更」のユースケースを関連付けて説明できます。
ユースケース例:注文フローのシナリオ
ECサイトで商品を注文するユースケースを見てみましょう。 カートに商品が入っている状態でなければ「注文は実行できない」など、一定の条件が必要になります。
// order.js // 注文フローをシンプルに表現した例 function createOrder(cartItems) { if (!cartItems || cartItems.length === 0) { throw new Error("カートが空のため、注文できません。"); } return { orderId: Date.now(), items: cartItems, status: "created" }; } function placeOrder(order) { if (order.status !== "created") { throw new Error("注文はすでに確定済み、または無効な状態です。"); } // ここで決済処理や在庫確認などの本格的な処理をする order.status = "confirmed"; return order; } // 例示としての利用 try { const cart = [{ productId: 123, quantity: 2 }]; const newOrder = createOrder(cart); const confirmedOrder = placeOrder(newOrder); console.log("注文が確定しました:", confirmedOrder); } catch (error) { console.error(error.message); }
ここのユースケースは「ユーザーがカートに商品を入れる」「注文画面で確認する」「決済を行う」といった流れになります。 中身の処理は省略してありますが、実際の実務ではこの部分に決済APIの呼び出しや在庫数のチェックなどを組み込みます。
ユースケースとして事前に「カートが空だった場合は注文できない」「確認画面を経由しないと決済できない」といったルールをはっきりさせておけば、仕様も実装も整理しやすいでしょう。
実務におけるユースケース活用例
システム開発の現場では、ユースケースは要件定義書の作成やプロトタイプ段階の仕様確認など、さまざまな局面で役立ちます。 機能が多い場合でも、それぞれのユースケースを軸に「何が本当に必要か」を検討し直すことができるのです。
新機能の追加が検討されるときも、「ユーザーがどのような操作を通して目的を達成するか」をユースケースとして再度洗い出すと、既存機能との重複を避けやすくなります。
ユースケース図やシナリオを丁寧に作っておくと、メンテナンスフェーズで合意形成がスムーズになることがあります。
プロジェクトメンバーが増えたり外部チームが関わったりする際も、ユースケースを共有するだけで大まかなシステムの全体像を把握しやすいです。 結果として、認識違いから発生する手戻りリスクを下げる効果が期待できます。
注意すべきポイント
ユースケースはユーザーの視点で整理できる点が良いところですが、いくつか注意点があります。 まずは、複雑なシステムだとユースケースの数が増えすぎる場合があることです。 あまりに細かい操作を一つひとつユースケース化してしまうと、管理する側も読む側も大変になってしまいます。
次に、ユースケースは「ユーザーが何をしたいか」を中心に設計するため、「実装が技術的にどれほど困難か」という部分が抜け落ちやすいことがあります。 「実装の難易度は高いが、ユーザーが少しでも必要性を感じていればユースケースに含める」という議論になりがちです。 技術的な制約も含め、バランスよく判断することが求められます。
ユースケースの洗い出しが終わったら、開発コストやシステム全体の設計を踏まえて優先度をつけるようにすると混乱が少なくなります。
まとめ
ここまで、ユースケースという言葉の意味や、図式化の方法、そして具体的なコード例などを紹介してきました。 ユーザーが求める行動を、具体的なシナリオとして整理するのがユースケースの基本的な考え方です。
また、UMLのユースケース図を併用すると、開発者やプロジェクトの関係者が同じイメージを持ちやすくなります。 一方で、機能の細分化や開発優先度の調整など、ユースケースだけに頼りすぎない注意も必要でした。
ユースケースを上手に活用すると、システム開発やサービス設計で「誰が、どんな目的で、この機能を使うのか」が明確になり、仕様の曖昧さを減らすことにつながります。 皆さんもプロジェクトの要件や機能を検討する際は、ぜひユースケースの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。